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椅子に座っているのはエリア11総督である第二皇女コーネリア。 右横に立つのは彼女の専任騎士であるギルフォード。 左横に立つのは腹心の部下であるダールトン将軍。 その彼らの目の前には、強化繊維を編みこまれたロープで拘束されている偽ゼロが座っていた。いかに体力馬鹿といえども、KMFを使っても引きちぎるのは困難と言われるこのロープで拘束されてしまえば、逃げ出すことなど不可能だった。 完全に無力化出来たことで、この部屋には4人以外の姿はなかった。 「さて、偽りのゼロよ。はじめましてというべきかな?」 「・・・」 反応を返さない偽ゼロに、コーネリアは呆れたように言った。 「なんだ、言葉を無くしたのか?まあいい。単刀直入に言おう、私の配下となれ」 「コーネリア皇女殿下の配下に!?」 今まで散々ブリタニア軍の作戦を妨害してきた偽ゼロに対して、信じられないような申し出に、偽ゼロは思わず驚きの声を上げた。 何だ、喋れるじゃないかとコーネリアは口元に弧を描いた。 しかも今コーネリア皇女殿下と呼んだ。 コーネリアやブリタニアの魔女ではなく、敬意をこめて皇女殿下と。 余裕を見せるコーネリアとは違い、偽ゼロであるスザクは、コーネリアの考えが解らず動揺し、この事態を測りかねていた。 だがこの申し出で、フルフェイスヘルメットの下は暴かれていないことが解った。 もし知られていれば、自分がすでにブリタニアの軍人で、所属に問題はあるが部下と同じように扱かえると知っているはずだ。 外傷に関しては、幸い大きな怪我が無かったため、裂けた服の隙間から消毒などはしたようだがそれだけで、軍手も長靴も未だ身に着けたままになっていた。 素性を隠している相手を勧誘するために、コーネリア達はそこまで気を使ったのだ。 スザクだと知られていないからこその高待遇。 だが、それはイエスが前提の待遇。 ダールトン、ギルフォード、そしてコーネリア。 たった三人。 上手く立ち回れば、正体を知られずに逃げることは可能か・・・? 自分の頭で彼らを出し抜くことは可能なのか? ・・・いや、不可能だ。 相手はあのルルーシュの姉。 盲目のナナリーでさえあれだけ賢いのだ。 彼女の上をいくに違いない。 どうする、どうすればいい。 「返事はどうした?」 イエスかノーか選択を迫るが、イエス以外の答えは死を意味する。 だが、イエスと答える訳にはいかない。 イエスアは、あの兄妹を裏切る回答だから。 ・・・ここまでか。 ルルーシュを守れたなら、十分だ。 ルルーシュとナナリーが無事ならそれで。 自分に身内と呼べる人間は、今では従妹のカグヤぐらいだ。 枢木からは、すでに縁を切られている。 だから正体を知られた所で、誰も困らないだろう。 スザクが死と向かいあい、静かな覚悟を決めた時、政庁内の電源が全て落ちた。 突然訪れた暗闇に、ダールトンとギルフォードが驚き、動揺したのがわかった。 電源が落ちれば、すぐに予備電源に切り替わるのに、それが無い。 電源が落ちれば、全てのドアの施錠が開くはずなのに、扉は固く閉ざされ開かない。 「一体どうなっているんだ!」 暗闇の中扉にたどり着いたのだろうダールトンが怒鳴り声を上げた。 電源が落ちれば、手でとあの開閉が出来るはずなのに固く閉ざされたままで、ダールトンは力任せにドアを開けようとしているようだった。 ギルフォードは先ほどの一から動かず、携帯で連絡を取ろうとしているようだが、外部と繋がらないらしい。コーネリアはシステムの欠陥かと舌打ちしていた。 そんな中、偽ゼロの耳は小さな音を拾った。 (スザク様) 幻聴かと思うような小さな声。 (そのままで。今拘束を解きます) 間違いなく咲世子の声だった。 どうやったのかは解らないが、咲世子はこの部屋に忍び込み、電源を落としたのだろう・・・スザクを救い出すために。 (スザク様の正体が知られれば、学園に捜査が入り、ルルーシュ様達の安全は失われます) それは流石にないだろう。万が一捜査が入っても、一時的に二人が学園を離れればあとはアッシュフォードが・・・と考えたが、それは甘い話だった。 スザクの親友がいると耳にすれば、もちろん調べるだろう。 あれだけ人気のある副会長だ、女子生徒の多くがルルーシュの写真を所持していると考えていい。その容姿からルルーシュが皇子であること、あるいはテロリストであることが知られてしまう。 スザクが犯罪者となれば、その時点で二人も終わりなのだ。 ルルーシュだけなら逃げ延びるだろうが、障害のあるナナリーを抱えて逃げるのは不可能に近いだろう。そのことに気づきもせず、死を受け入れようとした自分をスザクは恥じた。 そして、スザクの拘束が解かれた時、階下から爆音が聞こえてきた。 |